モーターヘッドのレミー・キルミスターの生態をとらえることに世界で初めて成功した映画『極悪レミー』(2010 年)のウェス・オーショスキー監督の最新作は、長年無視されてきたパンクロックのパイオニア、ダムドの映画だ。ダムドとモーターヘッドは1979 年“Motordamn”名義で一瞬合体、レミーがダムドのベースを弾いた時期があるほか、「ダムドは最高だ」と公言していたことから、オーショスキー監督の次回作がダムドの映画であることは一切の疑問を挟む余地がないほど自然なことである。1976 年結成、セックス・ピストルズ、ザ・クラッシュとともにロンドンの3 大パンクバンドのひとつに数えられ、UK パンク初のシングル「NEW ROSE」、同じく初のアルバム「Damned, Damned, Damned」を発売、初めて大西洋を渡りアメリカでのライヴを敢行、そして後のゴスの流行を作るなど、あらゆる面でオリジネイターとして現代にいたるまで大きな影響を及ぼしているにもかかわらず、商業的な成功とは無縁のバンドだ。それはダムドの複雑な歴史、数えきれないメンバーの出入り、そして何よりも40 年を経た今なお現役であり“伝説”と化していないことが大きな要因であろう。しかしダムドが70 年代末にアメリカでライヴを行ったことをきっかけとして全米にアメリカンパンクの嵐が吹き荒れた事実は、ロックの歴史において重要な事象である。セックス・ピストルズは『ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル』(80 年)や『NO FUTURE A SEX PISTOLS FILM』(00 年)、ザ・クラッシュは『ルード・ボーイ』(80 年)や『LONDON CALLING/ザ・ライフ・オブ・ジョー・ストラマー』(06 年)など関連する映画作品が作られてきている中、本作は満を持してのダムドを題材とした史上初の映画作品である。しかしそんなダムドの映画製作は、一人の人物を追った『極悪レミー』とは全く異なる種の困難を極め、4 年以上を経て完成にこぎつけた監督は疲れ切っている。
Photo by Wes Orshoski
Uncut 誌から「完璧だ」と讃えられたこの『地獄に堕ちた野郎ども』はダムドの歴代メンバーのほか、多くのミュージシャンたちが出演、バンドを追って地球上をまわり3 年以上に渡って撮影され、バンドの、全体を把握することが不可能ともいえる難解な歴史と、メンバー間のもめごと、ダークサイドな部分までをストレートに伝えてしまっている。現行ダムドのオリジナルメンバーたちの派閥はアニバーサリーツアーに繰り出し、元メンバーたちは奇妙な苦境に立たされている。この、誰も成し得なかった(作れると思わなかった?)、ダムドというバンドの物語を映画化するという不可能への挑戦、そして映画作品として完成させたオーショスキー監督の努力は称賛されるべきであり、されるはずだ。2015 年3 月、ワールドプレミアとなったテキサス州オースティンで開催のSXSW 映画祭に出席したキャプテン・センシブルはスクリーンに向って叫び、同年6 月のUK プレミアにはラット・スキャビーズとブライアン・ジェイムズが出席した。被写体主導の宣伝目的の映画か、フィルムメイカーがイニシアチブをとりつつ被写体の希望を受け入れた映像作品か、監督が暴走した作品か。。。本作は、意図せずとも、世に大量生産され続ける音楽ドキュメンタリーの在り方、製作の方法、監督と被写体の関係性、誰が何のために作るのか、をあらためて問いかける作品となった。
Photo by Wes Orshoski